魯班営造学社

( ルパンえいぞうがくしゃ)

 

 奈文研から大学に移った2年目の2002年、前期に担当授業がなかったので、建築士の資格をとることにした。45歳の春である。それまでほとんど考古学者のような生活をおくっていたので、体内の振り子を建築の方向にもどす必要があり、資格試験を経験することで、学生たちにアドバイスできるようにもなると考えていたのである。ただし、1級建築士はあえて避けることにした。準備の時間が足りないこともあったが、「いまさら1級でもあるまい」と思っていたからだ。自分が継続する仕事といえば、木造建築の修復か復元建物の設計だろうから、2級で十分こと足りる。気になったのは「木造建築士」の資格であった。 

 

 2級の資格をとれば、「木造」の資格は必要ない。しかし、「木造建築士」という資格名称には、なんともいえない魅力がある。聞くところによると、木造建築士は中卒で7年間現場を経験した若い大工たちを対象にした資格であり、なにより木造建築建設現場の知識を要求しているという。ところが、近年、こういう若い大工たちもいきなり2級をめざすようになったので、「木造」の受験者はほとんどいなくなってしまった。だから、大手受験予備校は「木造」試験の講義をしていなし、過去問題集等もまったく出版されていない。つまり、木造建築士の資格を取得するには、独学で勉強する以外にないのであって、これもまたわたしのハートに火を点けた。

 
 結果からいうと、2級の製図でとんでもない見落としがあり、「不合格間違いなし」と思いこんでいたのに合格通知が舞い込んで驚喜し、「木造」の試験も無事パスした。「木造」の試験は学科・製図とも1級とおなじ日で、「木造」の受験者はわたし一人だった。ちなみに試験会場は、その年から鳥取環境大学になっていて、わたしは自分の大学で資格試験を受けたのである。ウソかホントか知らないが、鳥取県内で木造建築士の合格者がでたのは10数年ぶりとのことだそうで、この情報に一人ほくそ笑んでいた。
 

 

 
 合格通知が届いた後、さっそく事務所登録にでかけた。事務所の名称は「魯班営造社」。わたしはこの事務所を通して設計活動がしたかったわけではない。ゼミ生の就職問題が頭にあったのである。万が一、ある学生に就職先が決まらない場合、その学生を「魯班営造学社」の社員にしようと考えていた。社員になって、学生が特別の恩恵をうけるわけではないが、以下のように、利点がないわけでもない。
 
@実質的には浅川研究室のメンバーとして、大学院レベルの調査・研究・制作等の活動に参加できる。
 
A給料はないが、授業料もとらない。
 
B2年間在籍すると、1級建築士受験資格がうまれる。
 
さいわい第1期ゼミ生は全員が就職・進学したので、いまのところ社員はいない。この状況が続くことを祈っている。
 

 
さて、事務所名についても説明しておこう。『孟子』などの記載によると、〈魯班〉は周の時代、魯の国で活躍した名工で、雲梯や木鳶を作る能力に長けていた。その後、名工の一般名称となる。ちなみに、飛鳥寺造営時に百済からやってきた「露盤博士」の露盤と魯班は同音(中国音はルパン)で、その意味するところも同じである。明・清時代になると、『魯般営造正式』『魯班経』などの民間工匠技術書が編纂された。一方、〈営造〉は「建築(活動)」を意味する中国語である。『営造法式』『清式営造則例』など、中国建築に関わる古典的マニュアルの書名に常用され、戦前に結成された最初の中国建築史学会の組織名が「中国営造学社」であった。「中国営造学社」は会誌である論文集『中国営造学社彙刊』を残しており、わたしも「メモワール・ド・ルパン」と題する年報を毎年出版することが夢であって、これをなんとか近い将来実現させたい。どなたかスポンサーになってくれませんか?
 

 

 住所: 魯班営造学社
〒680-0803 鳥取市田園町2-157-37
e-mail.: asax13lupin@yahoo.co.jp
 

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